16世紀、アイルランド北西部コノート地方。
イングランドの侵略が着々と進むこの地で、「凶悪な海賊の頭」と恐れられた女がいた。
海賊をなりわいとする一族に生まれ、自ら船に乗り他部族との戦いや商船襲撃を指揮した「海賊女王」こと、グラニュエル・オマリー(通称グローニャ)である。
◆このグローニャの熱く激しい一生を描いた作品、皆川博子作『海賊女王』の感想です。

グローニャは所詮アイルランドの小さな部族の頭にすぎないのですが、自分の一族を守るため、当時のイングランドの支配者であるもう一人の海賊女王−海賊に許可状を与え、その元締めになっていたエリザベス1世−との交渉に臨み、堂々と渡り合ったことがある(実在の人物)のだとか!

◆この作品の面白さは、まずはなんといってもグローニャ、そしてグローニャの従者である主人公アランを始めとした、豪快で仲間思いな魅力あふれる登場人物たち。

そして、映像が目に浮かぶような生き生きとした情景描写。
皆川さんの文章は冷静で、湿っぽさが全くないのですが、その行間からは火薬や血の匂いが濃く漂ってくるようです。

さらに、イングランドというあまりにも巨大な力に対して、誇りを守るべく必死に抵抗するアイルランドの人々の姿が胸を打ちます。
たとえ無駄な抵抗でも、死ぬと分かっていても戦わずにはいられない… こういうの、グッと来ちゃいませんか。

とはいえ、海賊ですから商船を襲って人をばんばん殺したり積み荷を奪ったり、犯罪行為も多いのですけど、それはさておき。

◆皆川博子さんという人はつくづく凄い作家、っていうか化け物だと思うのです。
80を越えてなお世の中に訴えたいテーマを持っているってだけでも脱帽なんですけど、枯れとは無縁でまだメラメラ燃えたぎってる。
82とか83とかで、こんな血生臭い、敵の船を沈めまくり斬り込みまくりな女傑の長編を書きますかね。そのパワーには毎回唖然とさせられます…。

◆アイルランドの海風に吹かれ、時には海賊同士の戦いで死にかけ、時にはイングランドの手先を翻弄し、一族を必死に守り、仲間の無残な死に涙し… 絶対体験できないような波乱万丈な人生を味わわせてくれる『海賊女王』、おすすめです!

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