夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

◆新聞の書評で見かけて、気になっていた一冊。
表紙が素敵だと思ったら、アジカンのジャケットも手がけている中村佑介氏のイラストでした。

「鬼才モリミが放つ、キュートでポップな片想いストーリー!」だの「長編恋愛小説!」だのと銘打たれていたので、てっきりラブストーリーだと思っていたけれど、これは青春小説でもあり、ファンタジーでもあり… なんとも言えません。ジャンル分けが難しいのです。

そして、とても、とても、素敵な小説でした!

君繋ファイブエム◆舞台は京都。
主人公は、大学のサークルの後輩である「黒髪の乙女」に密かに恋する男の子。
もう一人の主人公は、「黒髪の乙女」。

男の子はなんとか彼女の気を引こうと無駄な努力を重ねますが、何しろ相手は無邪気で好奇心旺盛、素直で感動屋でアルコールを愛し、天然で恐ろしく鈍感な乙女。
彼になど目もくれず、ひたすらマイペースに、ずんずんと京都の街を歩いていきます。

そして出会う、不可思議な人々。

夜の通りに突如現れる、三階建ての電車に住まう謎の老人。
詭弁を弄し、うなぎのようにくねくねと「詭弁踊り」を舞い狂う「詭弁論部」の面々。
タダ酒飲みの天才、鯨の胃袋を持つ美女。
「天狗」を自称し、ふわふわと天井に浮き上がる飛行術を持つ浴衣の男。

こんな妖怪じみた人々に邪魔されながらも、彼は必死に黒髪の乙女の後姿を追いかけ続けるのです。ストーカー寸前の一途な想いが、彼女に届く日は来るのでしょうか…?

◆少々古めかしい文体は、品がよく、上質なユーモアに満ちており、快いテンポで読むことができました。現代の京都という設定だけれど、有り得ない事件が普通に起きてしまう、どこか別の次元に迷い込んでしまったような不思議な雰囲気。

その幻想的な世界は宮沢賢治の描く幻燈のようでもあり、奇怪な登場人物の跋扈する様は(どなたかがamazonのレビューで書いていて、おぉ!と膝を打ったのですが)漫画「うる星やつら」のようでもあります。(個人的に、押井守氏に映画化してほしいと思ってしまいました)

残り頁が少なくなると、終わってしまうのが寂しい、ずっとこの魅力的な世界に浸っていたいと思わされる小説でした。これからも、何度でも本を開いてこの人たちに会いに行きたくなるような気がします。

とにかく、むちゃくちゃ楽しくて愛らしいお話ですよ。
web角川のflashビューワーで、12ページほど立ち読みが可能です。独特の文体に抵抗がなければ、ぜひお手にとって、ご一読くださいませ♪