◆新聞の書評で見かけて気になった『ベラスケスの十字の謎』を読んでみたら面白かったので、ご紹介。
スペインの作家エリアセル・カンシーノによる子供向けの本。やさしい文章だし短いので、さらっと読めます。
ベラスケスの描いた「侍女たち(Las Meninas)」は、誰でも一度は見たことのある名画でしょう。しかし、これは単なる肖像画のようでいて、実はいくつもの謎がちりばめられているのです。そんな謎めいた絵の誕生にまつわる物語です。

◆舞台は17世紀のスペイン。小人症の少年ニコラスは親に売り飛ばされ、道化師としてフェリーペ4世に仕えることになります。
慣れないスペイン語や宮廷のしきたりに苦労しながらも、持ち前の頭の良さを発揮し、そこで生きる術を身につけていくニコラス。

やがて彼は、宮廷画家ベラスケスと、その怪しげな来客ネルバルに出会います。
ネルバルはダンテの「神曲」の不吉な一節を暗唱してみせたニコラスを気に入り、ベラスケスに、現在取り組んでいる絵に彼も描き入れるよう提案するのです。

〜すべての希望を捨てよ わたしをくぐる者たちよ〜 (ダンテ「神曲」地獄篇より)

不可解な紆余曲折を経つつも、だんだんと完成に近づいていく絵。
何事かに苦悩するベラスケス。
そして、少年ニコラスが知った真実とは…?

◆子供向けなので、いささか展開が単純ではありますが、何よりテーマが魅力的!
あの独特の雰囲気をもつ名画の謎解きに加え、絵の中に封じ込められたキャラクターたちが額から飛び出してきて、生き生きと動き回ります。
当時のスペインの宮廷の雰囲気を感じることもできて、もっとこの世界に浸っていたいと思ってしまう。
できることなら、大人向けの長編小説として書き直してもらいたい一冊です。